文書作成日:2024/09/03
先月、厚生労働省は「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和5年)」を公表しました。これは2023年1月から2023年12月までに、全国の労働基準監督署が、賃金不払が疑われる事業場に対して実施した監督指導の結果を取りまとめたものです。以下ではその結果と実際の監督指導の事例をとり上げます。
[1]監督指導状況
2023年に全国の労働基準監督署で取り扱った賃金不払事案の件数、対象労働者数及び金額は以下のとおりです。
件数 21,349件(前年比 818件増)
対象労働者数 181,903人(同 2,260人増)
金額 101億9,353万円(同 19億2,963万円減)
これらの賃金不払事案のうち、令和5年中に会社が賃金を支払い、解決した最大の事案の支払金額は2.3億円でした。一方、この件数を業種別にみてみると、商業の4,407件が一番多く全体の21%を占め、製造業4,174件、保健衛生業3,261件、接客娯楽業2,685件、建設業2,047件と続いています。
[2]監督指導の対象となった事案
本結果の中では「監督指導による是正事例」が紹介されています。自社の労働時間管理の在り方を見直す際の参考となりますので、ここでは労働時間の適正な把握に関する指導事例をとり上げます。
[概要]
過重労働による労災請求がなされたことを受け、労働基準監督署が立入調査を実施。
- 労働時間は、勤怠システムにより管理を行っているが、当該システムに搭載された端数処理機能を用いて、日ごとの始業・終業時刻のうち15分未満は切り捨て、休憩時間のうち15分未満は15分に切り上げる処理が行われていた。
- 着用が義務付けられている制服への着替えの時間を、労働時間としていなかった。
[労働基準監督署の指導]
- 労働時間を適正に把握するための具体的方策を検討・実施すること。
- 過去に遡って、労働時間の状況について労働者に事実関係の聞き取りを行うなど、実態調査を行い、実際の支払額との差額の割増賃金の支払いが必要になる場合は、追加で支払うこと。
その後の対応として、会社は、正しい労働時間数を把握し、再計算の上、差額の割増賃金を支払ったようです。また、勤怠システムの設定を見直し、始業・終業時刻の切り捨て、休憩時間の切り上げ処理をやめ、1分単位で労働時間を管理することとし、制服への着替えの時間についても労働時間とすることとしました。
労働時間管理は労務管理の基本となります。過重労働を防止すると共に、賃金不払残業を発生させないよう、労働時間の適正把握、管理を徹底していきましょう。
■参考リンク
厚生労働省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和5年)を公表します」
※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。
- 無用な解雇トラブルを防止するために知っておきたい解雇予告の注意点2024/08/27
- 厚労省審議会から示された最低賃金額改定「全国一律50円」が目安2024/08/20
- 電子申請が義務となる労働安全衛生関係の手続き2024/08/13
- 引き続きトップとなった「いじめ・嫌がらせ」の相談件数2024/08/06
- 2025年4月から厳格化される育児休業給付の延長手続き2024/07/30
- 増加する精神障害の労災支給決定件数 求められるハラスメント対策2024/07/23
- 来年4月に創設される「共働き・共育て」のための給付金2024/07/16
- 重要となる職場の熱中症予防対策2024/07/09
- 3年連続増加となった休業4日以上の死傷者数2024/07/02
- 特別休暇を設ける際のポイントと注目を浴びる孫休暇2024/06/25
- 今国会で改正された育児・介護休業法の概要2024/06/18
- 今国会で改正された雇用保険法の注目ポイント2024/06/11
- 賃上げに取り組む企業への公的支援2024/06/04
- 労災保険特別加入者の給付基礎日額の変更2024/05/28
- 在宅勤務手当と割増賃金の算定基礎等の整理2024/05/21
- 注意が必要な36協定の「1ヶ月の時間数」の考え方2024/05/14
- 障害者雇用の現状と障害者を雇用する際の課題・配慮事項2024/05/07
- 企業の不妊治療への支援制度と助成金制度2024/04/30
- 今後注目が高まる仕事と介護の両立における課題2024/04/23
- 業務災害で死亡や休業が発生した場合に提出が求められる死傷病報告2024/04/16
- 今すぐ確認したい転倒災害の現状と防止対策2024/04/09
- 今年も4月より始まった「アルバイトの労働条件を確かめよう!」キャンペーン2024/04/02
- 労働基準監督署の「定期監督等」において違反件数が多い項目2024/03/26
- 労働者数が50人以上の事業場で求められる労働安全衛生法上の対応2024/03/19
- 3月分以降の協会けんぽの健康保険料率・介護保険料率2024/03/12
- 2024年4月1日から労災保険率が変更になります2024/03/05
- 広範な変更が予定される雇用保険法の改正動向2024/02/27
- 36協定を締結する際の注意点2024/02/20
- 4月より変更となる求人を行う際の労働条件の明示ルールの注意点2024/02/13
- 給与計算をする際に押さえておきたい端数処理の実務2024/02/06
- 民間企業の障害者実雇用率 過去最高の2.33%の実績2024/01/30
- 29.7%の企業が70歳まで働ける制度を導入2024/01/23
- 2024年4月から変わる無期転換に関する明示ルール2024/01/16
- 2024年1月から新設された育休代替要員等に対する助成金2024/01/09
- 今後数年のうちに施行される人事労務関連の法令改正2024/01/02
- 2024年4月1日より変わる裁量労働制2023/12/26
- 拡充されたキャリアアップ助成金「正社員化コース」2023/12/19
- 退職後に引き続き傷病手当金を受給する際のポイント2023/12/12
- 2024年4月から変わる有期労働契約の更新上限に関する事項2023/12/05
- 年休の取得率 初めて60%超え2023/11/28
- 事業主の証明により円滑化される被扶養者認定2023/11/21
- 厳格な運用が求められる変形労働時間制2023/11/14
- 2024年4月から変わる労働条件「就業場所・業務の変更の範囲」の明示ルール2023/11/07
- 最低賃金引上げに伴い賃上げに取り組む企業への公的支援2023/10/31
- 今年も11月に実施される過重労働解消キャンペーン2023/10/24
- 協会けんぽの被扶養者資格の再確認2023/10/17
- 12月から始まるアルコール検知器によるアルコールチェック2023/10/10
- 厚生労働省が乗り出した扶養の壁対策2023/10/03
- 時間単位年休と子の看護休暇等の時間単位の取扱いの違い2023/09/26
- 過去最大の引上げ幅となった2023年度の最低賃金2023/09/19
- 2022年度の労基署による賃金不払事案の指導金額は121億円2023/09/12